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第6回胃粘膜下腫瘍教室

  この連載ではQ&Aの形で胃粘膜下腫瘍について説明しています。今回も前回に引き続き、粘膜下腫瘍の手術方法について説明します。ちょっと難しい説明になりますが、がんばって読んでください。

Q10:胃粘膜下腫瘍のため胃全摘(胃を全部取る)といわれました。どうしてですか?

A:上級編です。Q8で少し書きましたが、今回はもっと詳しく説明しましょう。胃と食道と胃のつなぎめは、「食道胃接合部」または「噴門(ふんもん)」とも呼ばれます。ここにできた粘膜下腫瘍の場合、胃全摘出術が行われる場合があります。

図を見てください。胃に近いところに迷走神経(めいそうしんけい)というのが走っているのがおわかりになりますか? これは自律神経(じりつしんけい)のひとつで、胃を動かす神経です。この神経のおかげで、私たちの胃はよく動き、食べ物を小腸に送り出してくれるのです。この神経が幹の部分で切れると、胃は動かなくなり、食べた物は胃から出ていくことができずに停滞してしまいます。食道胃接合部の粘膜下腫瘍を標準的な手術法で切り取るとき、どうしても迷走神経の幹も一緒に切れてしまいます。この状態で胃を残しても、神経の幹が切れたことで胃は動かず、食べ物が停滞してしまいます。これは悲惨な状態で、最悪食事はほとんどできなくなります。こんな状態より全摘出のほうがはるかにましです。このような考えから胃を全部取ってしまうのです。

施設によっては全摘出術に代わる術式として胃の上半分を取る噴門側胃切除術を積極的に行うところもあります。残された下半分の胃でも食物はうまく通過するとの考えで行っているようです。学会ではかなりよい成績も発表している病院もありますが、私個人の経験では全摘と大きな差はないように思います。逆流性食道炎や縫合不全などの合併症も皆無ではありません。「胃が少しでも残る」という患者様の心理的なメリットは否めませんが。。。

いずれにしても胃粘膜下腫瘍、特にGISTを疑う場合は、胃の壁ごと全層でしっかりまわりに正常組織をつけて取るというのが標準的手術方法になっていますので、これに従うなら胃全摘(または噴門側切除)を覚悟しなければなりません。半端な切り方をすると再発のリスクが高まるとされています。

しかし諦めるのはまだ早い。私はこのような状態でも、胃の形も働きも完全に残すための手術を工夫してやり続けています。それが胃内手術です。これについては次回詳しく説明したいと思います。

<ジレンマ> 外科医の本音

食道胃接合部(食道と胃のつなぎ目)に粘膜下腫瘍が発見されるのは若い方も少なくありません。私のところ相談に来る方々も、30代、40代の方が多く含まれています。地元のドクターとの相談内容を聞いてみますと、腫瘍サイズが2センチ程度と小さい場合、「もう少し経過観察しましょう」というのが圧倒的に多い。中には3センチを超えてもまだ様子を見ましょうと説明を受けている方もいました。

若い患者様に、胃を全部取るという説明をするのが残酷に思えるのでしょう。いきなり「胃を全部取る」と言われたら、だれでもショックですから。理由が納得できない方もいらっしゃるでしょう。このような背景からドクターによっては、この場所に粘膜下腫瘍が見つかったときには経過をみて、4センチを超えるくらいになって、初めて手術を勧めるのです。「悪性(がんの一種)の可能性が高くなってきましたから、胃を全部切らなくてはいけません」という説明になります。もはや「癌」なのだから、胃全摘を受け入れてくれるだろうという思いです。

しかし、ここで気をつけておかなければならないのは、4センチを超えると、後で説明するような特殊な方法で胃を温存できる可能性が小さくなってしまいます。しかもGISTでしたら腫瘍が大きければ大きいほど転移の確率は高くなりますから、腫瘍学的に見て経過を見続けるメリットは何もありません。

私は食道胃接合部に限って言えば、そこにできた粘膜下腫瘍が2cmを超えていたら、手術を考えるべきだと考えています。これはガイドラインや多くのドクターが考えている手術方針の考え方とやや異なりますが、私自身だったらこの考えに従い手術を受けるつもりです。

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私は胃内手術を始め、腹腔鏡での胃粘膜下腫瘍手術を1993年(金沢大学病院勤務時代)から積極的に行ってきました。2012年からはメディカルトピア草加病院で手術を行っていますが、2020年6月までの同病院での胃粘膜下腫瘍手術総数は400人を超えています。この手術数は世界でもトップレベルと思います。日本全国、あるいは海外からも、胃の温存を希望する患者様が手術を受けに来てくださいます。

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