この連載ではQ&Aの形で胃粘膜下腫瘍(特にGIST)について患者様にもわかりやすい表現で説明 しています。 今回は特によくある質問です。粘膜下腫瘍が見つかった時に手術すべきかどうかについて私の考え方を説明したいと思います。
A:手術を受けたほうがよい場合が多いです。いろいろな考えがありますが、私の個人的な考えでは、GISTが否定できない胃粘膜下腫瘍は見つかったら取る方向で考えたほうがよいと思っています。GIST研究会から「GIST診療ガイドライン」というのが出ています(https://gist.jp/guideline/guideline01 )。そこには胃粘膜下腫瘍が見つかった場合、 手術すべき否かの指針が出ています。特に注目したいのは、GISTかどうかわからない直径2cmから5cmまでの粘膜下腫瘍で、CTスキャンなどで悪性所見が見られない場合 です。このような方は少なくありませんが、ガイドラインでは、1年に1回か2回経過を観察でもよいと書かれています。というわけでドクターも腫瘍が5センチを超えるまでは様子をみてもよいですよというひとが少なくありません。
粘膜下腫瘍には悪性も良性もあります。悪性とはどういうことかというと、放置すれば腫瘍が大きくなり、やがて胃の他の臓器に転移し、全身に散らばって命を落とす病気ということです。2019年2月に俳優の萩原健一さんが悪性の胃粘膜下腫瘍(GIST)で亡くなりました。彼の死により、粘膜下腫瘍の中には命を奪う恐ろしいものも含まれているんだと世間に認知された経緯があります。
理由(II)待っていても腫瘍は消えたり小さくなったりしません。しかも経過を見ている間に患者様はみな歳をとります。心臓や肺や腎臓の機能は、悲しいけれど年々衰えてくるはずです。手術に対して悪影響を及ぼす薬を飲み始めるひともでてくるかもしれません。このような手術に際してリスクとなる要素が増えてから、しかも腫瘍が大きく育って手術が難しくなってから「さあ、手術しましょう」というのは果たしてよい選択と言えるでしょうか。症状がなく、お元気で食生活を送られている方が、手術を受けるというのは抵抗が強いことは理解できます。ですから多くの方がずるずると経過観察を受けていますのも理解できます。しかし、粘膜下腫瘍が小さいうちに手術を受けていれば、体の負担も小さく、きずも小さく手術できたものを、何年も待って大きなきずで、胃の欠損部も大きくなり、出血量も多くなる可能性がある手術を受けることになるというのは、私には快く賛同できないのです。
理由(III)部位によりけりですが、特に食道と胃のつなぎ目(噴門)に腫瘍が見つかった場合や、胃上の方の小弯側に見つかった場合は、小さいうちに手術しないと、手術時に迷走神経のダメージが大きくなり、術後胃の働きが非常に悪くなります。このことについては大切なのでまた改めて説明します。
以上は世の中のコンセンサスではなく、飽くまでも私の個人的な見解です。ほかにも腫瘍をずっと抱えていると、今頃大きくなっていないかとか、リスクが高くなったらどうしようとか、居ても立っても居られない精神状況に追い込まれたり、ノイローゼ気味になってしまったりすることがあります。このようなメンタルが日常生活に悪影響を及ぼすようなら手術してしまった方が良いかもしれませんね。
A:違います。一言で言うと、リンパ節郭清を行うか行わないかという違いです。この違いは術後の生活の質に多大な影響を与えるものです。
胃がんの手術では、胃の半分以上を切り取り、胃のまわりにあるリンパ節を一緒に取ってきます。その後、残った胃と小腸をつなぐ手術になります。食生活は激変します。いっぺんにたくさん食べられません。一日に少しずつ何度も食べることになります。
これに対し胃粘膜下腫瘍の手術は、局所切除(きょくしょせつじょ)と呼ばれる方法が基本です。局所切除では腫瘍だけを完全に切り取り、なるべく健康な胃を残します。多くの場合術後も術前と変わらない食生活を送ることができるのが普通です。
ただし、病変の大きさ、発生部位などにより、健康な胃を残すのが困難なケースもあります。このような場合は外科医によっては、胃がんと同じような手術を行う場合もあります。この話は大切ですし、やや複雑なので次回以降の連載で詳しくお話しします。
私は胃内手術を始め、腹腔鏡での胃粘膜下腫瘍手術を1993年(金沢大学病院勤務時代)から積極的に行ってきました。2012年からはメディカルトピア草加病院で手術を行っていますが、2020年6月までの同病院での胃粘膜下腫瘍手術総数は400人を超えています。この手術数は世界でもトップレベルと思います。日本全国、あるいは海外からも、胃の温存を希望する患者様が手術を受けに来てくださいます。