この連載ではQ&Aの形で胃粘膜下腫瘍について患者様にもわかりやすい表現で説明 しています。今回も前回に引き続き胃粘膜下腫瘍の診断について、特に特にGISTと平滑筋腫の違いなどについて説明したいと思います。
A:GIST(消化管間質腫瘍)と平滑筋腫は、ふたつ合わせて粘膜下腫瘍手術患者全体の8割以上を占める、メジャーな腫瘍です。GISTは悪性ですが、平滑筋腫は(ほぼ)良性ですので、患者さんは気になるところです。これが手術前になかなかわかりにくいところが一番の悩みの種と言っても過言ではないでしょう。 右の胃カメラの写真だけでは、GISTか平滑筋腫かまったく区別できません。
最終診断を下す病理学の医師は特殊な方法で腫瘍の細胞を染め、その色合いで診断を下すのですが、染まっているか否かの判定がなかなか難しい時があります。ということで手術前にこれらを見分けることは簡単ではありません。
手術前に診断をつけるために、地面に穴を掘って調査するボーリングのような検査方法や針を刺して細胞を調べる方法もあります。これらの検査方法では出血・胃潰瘍形成・腹膜炎という合併症の危険を伴います。しかも採取できる組織がとても小さかったり、腫瘍が小さい場合など技術的難易度も高いため、正確な診断にむすびつかない場合も少なくありません。以上より私は積極的にはお勧めしていません。平滑筋腫でもGISTでも手術となれば同じ方法になりますので、正確な診断を得るためには、摘出した腫瘍を丸ごと取って検査に出し、その所見に頼るのがベストと思っています。
A:胃粘膜下腫瘍が小さい時には、そのために症状が出ることはありません。私は直径10㎝を超えるGISTの患者さんが全く無症状だったことに驚かされたこともあります。このように粘膜下腫瘍の多くは無症状のため、発見されにくいのではないかと思います。症状があって胃カメラを行った結果、粘膜下腫瘍が見つかることもあります。
しかしそれは偶然見つかったのであって、症状は胃炎などの別の原因によるものです。健康診断のバリウム胃透視の写真で、偶然発見される場合も少なくありません。そのような場合は胃の隆起性病変(りゅうきせいびょうへん)と診断され、胃カメラを受けなさいと言われます。
胃粘膜下腫瘍が大きくなると、潰瘍ができて出血する場合があります。私のところにも吐血が原因で粘膜下腫瘍が発見された患者様が訪れたこともあります。腫瘍が巨大になるとおなかの圧迫症状や、食べ物の通過に障害が発生することもまれにあります。
次元の違う話かもしれませんが、ひとたび粘膜下腫瘍が見つかった患者様の多くは、ネットでいろいろな情報を調べているうちに、悩んだり不安になり、意識が胃に集中しすぎたり寝不足になったりメンタルが原因で胃の症状が現れることが少なくないようです。私の外来ではそのような患者様が後を絶ちません。
写真③は 検診の胃透視の写真で偶然発見された胃粘膜下腫瘍。このように症状に乏しいため、偶然発見されることも多い
写真④は 胃潰瘍と出血を伴った巨大な胃粘膜下腫瘍の内視鏡写真
私は胃内手術を始め、腹腔鏡での胃粘膜下腫瘍手術を1993年(金沢大学病院勤務時代)から積極的に行ってきました。2012年からはメディカルトピア草加病院で手術を行っていますが、2020年6月までの同病院での胃粘膜下腫瘍手術総数は400人を超えています。この手術数は世界でもトップレベルと思います。日本全国、あるいは海外からも、胃の温存を希望する患者様が手術を受けに来てくださいます。